もちねこのペアダンスメモ

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異国のダンスを学ぶ

女性参政権獲得前後の社交ダンスのパートナー関係の変化(社交ダンスの暗黒時代)

 

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socialdance.stanford.edu

 

 

当初の社交ダンスの姿 

 

ボールルームダンスの3つの世界で述べたように、クローズドカップルパートナーダンスは19世紀に始まりました。
その頃、ヨーロッパとアメリカの両地域で、本質的な社交ダンスの考え方というのは、無私無欲な寛大さで、ダンスパートナーと集まった仲間の楽しみを高めることに重点が置かれていました。
当初の社交場での態度のもう一つの重要な部分は、柔軟な心構えとパートナーへの順応でした。

 

米国のダンス大家ウィリアム・デガーモ(William DeGarmo)は1875年に「多様なスタイルを身につけた紳士は、さまざまなパートナーに容易に順応する」と書いています。デガーモは男性がステップをパートナーのステップに合わせるもので、その逆ではないと示唆しています。

アメリカで最も有名なダンスの大家であるチャールズ・デュラン(Charles Durang)はさらに、「紳士は常にパートナーに気を配るべきで、彼らはあらゆるステップと態度に同調(unison)して動くべきです」とはっきり言っています。紳士は婦人の要望に応えるものです。


暗黒時代:1920年代~1950年代

上記のことが1920年代に完全に逆転し、ダンスマニュアルがボールルームダンスのとりわけ不快な局面に変わってしまった時、リードという言葉は「コマンド command 命令する」を意味し、フォローは「obey オベイ 従う」を意味するようになりました。

 

シカゴのエル・レイ(L.Ray)は1930年にこう書いています。
「もしも、いわゆる女性(優しい方の性)が、踊る時に優しく大人しく黙って従ってはいけないとするのなら。
参政権フェミニズムに対する彼女の見解がどうであろうと、ダンスフロアで男性にリードさせるのは女性の義務である。彼こそが導き手であり、彼女はその追随者である。
彼がペースメーカーであり、彼女は影に過ぎない。」

参政権フェミニズム?!
ええ、この新しい社交ダンスの姿勢は、アメリカの女性が参政権を獲得した直後に巻き起こり、同時に一部の男性からのバックラッシュを招きました。

この態度はすぐにイギリスにも広がりました。ロンドンのコートニー・カッスル(Courtenay Castle)はこう書いています。
「さて、男女平等の時代にあって、男性は、ダンスフロアではとにかく男性がまだボスであるという事実に元気づけられる。特定のステップをいつ、どこで踊るかを決めるのはなのです。彼はダンスのパターンをデザインする。男性はほとんどの仕事をしますが、彼のパートナーはきれいな絵を描くだけです。さて、女性たちにとっては、この件に関して言うことはほとんどありません」

 

イギリスのボールルームチャンピオンのビクター・シルベスターは、1927年に女性に対してもっと簡単なアドバイスをしました。
「パートナーに完全に服従しなさい」
そして、アーサー・マレーは、女性はこうしたいと思っていると考えました。すなわち「ダンスフロアは、弱い性が従順であり続けることを好む場所です」。

同じくイギリスのボールルームチャンピオンであるアレックス・ムーアはこう書いています。
「男性が正しくフィガーを踊っているかどうかにかかわらず、女性の役割は従うことです。彼女は自分の心を持ってはいけない。彼女はその男性が何をしようとも従うべきで、彼を正そうとしてはいけない」


アメリカ人のジョージ・ラフトは「彼女自身の心を持ってはいけない」と、さらに一歩踏み込んで言いました。
ダンスパートナーが頭脳を持ってしまうと、自分でアイデアを考え出そうとし、単に機械のように考えたり動いたりするべきなので、知能の高い女の子は私には向きません」
注:これは正体不明な引用ではありません。雑誌「ダンシングタイムス Dancing Times」の1934年4月号で目立って取り上げられ、当時のあらゆる社交ダンス界のダンサーに読まれたものです。


女性は男性のステップに合わせなければなりませんでした。そうでなければ、結果として生じる損害は彼女の過失と見なされました。

「お嬢さん、つぶれた足の指をパートナーのせいにしないで。おそらく、あなたのバックステップが小さすぎます。どいて!」(感嘆符は彼がつけました) アーサー・マレー 1946年

1865年の引用と比べてみてください。
「自分が面倒を見ている女性に何か災難があったら、良いダンサーは自分が恥をかいたと思うでしょう」

これらの言説は、社交ダンスにおける新しい態度であり、男性による支配と女性の服従を強調していました。
ダンスの指導は今や、女性にダンスを楽しんでもらうものではなく、男性が人形を動かすように表現されていました
例えば、右の手のひらを女性の脊椎の左側につけて押す圧力は、女性を右に曲がらせます。リーダーは、右の手のひらで圧力をかけることによって、女性の左足を右足の上でクロスさせます。

 

「リードには2つの基本的な用途があることを覚えておく必要があります。1つ目はポジションを変えること、2つ目は女性にステップを実行させることです。女性がパートナーのリードにすぐに反応しないとき、彼は彼女をより強く抑え、より強いリードを与えるべきです」
イスラエル・ヒートン(Israel Heaton)、ブリガムヤング大学、1954年

 

もしあなたがダンサーで、あなたにとって今まで読んできたことが全部普通のことのように聞こえるなら、一歩下がって全体像を見てください。


ここでの本質的なダイナミクスは何でしょうか?

 

彼は彼女に尋ねました。
「踊りませんか?」
「ええ、喜んで!」と彼女は答えます。

 

彼女の答えた意味は何だと思いますか?

「はい、踊りたいです」
または
「これからの3分間、私を押したり引いたりして、手のひらを背中に押し込んだりして私のあらゆる動きを制御してほしいの」

 でしょうか?

もし、あなたが、彼女が2つ目のものを好むと思うなら、彼女が好むものを実際に彼女に尋ねることをお勧めします。
あなたはびっくりするかもしれません。

 

私たちのお勧め:
踊りたいかどうかを女性に尋ねたら、彼女に踊らせましょう-つまり、あなたが踊らせてはいけないということです。
それは彼女への侮辱であり、事実上「あまり上手に踊れませんね。あなたを踊らせるためには、私が必要です」と言っているのです。
もちろん、ソーシャルダンスにはフィガーの提案を伴うリード/フォローのダイナミクスがあります。フォローはそれらの提案を解釈し、リードはその彼女の解釈を彼のダンスに適合させていくのです。
しかし、それは彼が彼女の一挙手一投足をコントロールすることとは異なりますし、ましてや服従を期待することとは全然違います。

 

2つの時代を比較する

パートナーの面倒を見ることは男性の責任:

「ちょっとした用心深さは、ほとんどの場合、衝突を避けることができますし、良いダンサーは、もし彼が面倒を見ている女性に何か災難が起こったら、自分が恥をかいたと思うでしょう。」
ーラウトレッジのボールルームコンパニオン,ロンドン,1865年頃

相手を傷つけないようにすることに集中していることに注意してください。

 

それから約1世紀後:

「ご婦人方、もしステップに集中していて(男性の集中がどこにあるかに注意して)、彼の不注意であなたが壁に突き当たったり、邪魔になって床に置きっぱなしの椅子を見落としたりしていたら、少し寛容に願えませんでしょうか。」
—1958年、ロンドン、コートニー・カッスル

 

紳士を改める婦人について

「紳士が貴婦人を無理やり後ろに引き戻すほどの経験が浅く不慣れな場合[注:1875年には、女性の社交用のドレスには短いトレーンがあったので、それは危険でした。もし彼女が後ろに一歩下がったら、彼女はそれを踏んづけてしまいました]には、貴婦人は直ちに右か左に向きを変えると同時に、それが危険であることを彼に告げる必要があります」
—ウィリアム・デガーモ,ニューヨーク、1875年

それから90年後:

「女性は男性のダンスを決して批判すべきではありません-彼女がパートナーなしで踊ることを好まない限り

-リチャード・クラウス、コロンビア大学、1965

 

暗黒時代

20世紀初頭の引用をもう一度見直してみてください。クラウス、ヒートン、シルベスター、レイ、キャッスル、ムーア、マレーは何を強調していましたか?

ダンスを楽しむ女性?それとも女性が男性に従っていること?

 

今日

未だダンスの暗黒時代に取り残されているバレエ教師やダンサーもいます。しかし、現代の一流のダンサーやダンス教師はその態度を完全に否定し、今ではダンスパートナー間の相互尊重を強調しています。

メインページで言及されているように、よく分かっているリードは、パートナーにとって何が快適で、彼女にとって何が楽しいかを知り、気にかけているものだからです。


免責事項:

1920年から1950年の間、すべての男性がパートナーに対して支配的な態度をとっていたわけではありません。当時の多くの紳士は相手の違いを尊重し、親切で柔軟で、ダンスフロアの様々な相手に順応していました。私がインタビューしたある女性は、「ダンスの相手を無礼に扱う男性はたくさんいましたが、夫はいつも完璧な紳士でした」と言いました。
しかし、このような「暗黒時代」の態度がこれほど広まっていたり、ダンスマニュアルに掲載が決まったのはかつて無かったことでした。


用語について:

私の他のWebページでは、FollowおよびLeadという用語は性差を示さないように表現されていますが、このページでは、性のポリティクスについて、女性と男性、または女性と男性のオリジナルの用語を維持することが適切だと考えて使用しています。

 

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リチャード・パワーズアメリカを代表する社交ダンスの歴史学者であり、歴史的および現代の社交ダンスを40年間教えています。彼は世界中でワークショップを主催しており、現在はスタンフォード大学のダンス学部の常勤講師を務めています。19世紀と20世紀初頭の社交ダンスを中心に、過去5世紀の社交ダンスを研究してきました。彼は1981年に「ビンテージ・ダンス」という言葉を作りました。現代の社交ダンスに関しては、リチャードが強調するのは、柔軟で注意深いパートナー関係、創造性、個人的なスタイルの開発、そして様々なパートナーのダンススタイルに適応する能力です。30数回の来日経験もある。

 

※2020年3月20~27日に「Tokyo Historical Dance Workshops」の為、来日予定である。

http://richardpowers.com/

(原著者から許諾を取り、翻訳しています)

 

 リチャード・パワーズの翻訳記事は下記より。

 

mochineco.hateblo.jp

 

 

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